嫌われ者のネット広告の存在意義を考えてみた
突然ですが、ネット広告って嫌われてますよね。不快な表現であったり、詐欺まがいの内容だったり、急にスマホの真ん中に "すぅっ" と出てきたり、中々の邪魔者であります。日本でもネット広告を非表示にするアプリがapple store売上1位になったりと、そりゃもう満場一致レベルで嫌われているのではないかと疑ってしまうくらいです。
そんな嫌われ者のネット広告ですが、関連する業界で働いていると「中の人のモチベーションってどうなってんだろ?大丈夫?」と他人事のように心配になっちゃうことがままあります。
ただ私が思うに、ネット広告は単なる邪魔者ってはわけではなく、ちゃんと消費者に貢献している所もあるんじゃないのかなーと思ってます。そういうネット広告の良い所を整理して、今後ネット広告業界はどういう風になっていくのかなと考えていこうと思います。
広告の存在意義について
「そもそも広告って何の役に立ってんのか?」と、いきなり核心に近いところについて考えていこうと思います。これについては、きちんと説明されている書籍があるので、こちら内容について紹介します。
単に"広告"といっても、ネット広告以外にテレビや雑誌、新聞、屋外広告など様々なフォーマットが存在していますが、こちらの書籍では広告の持つ経済的機能・社会的機能・文化的機能などについて説明されています。
ここでは広告の経済的機能を見てみましょう。
- 第一次需要や特定ブランドへの選択的需要を増加させ、経済全体の成長に貢献する
- 消費者が賢い選択をすることを補助する
- 製品差別化を促進することで、継続的な製品改良と革新的な新製品・サービスの開発に貢献する
- 潜在的なニーズを顕在化させ、大量消費・大量生産によるコスト低下を促進する
- マスメディアに広告収入をもたらし、その独立性を維持することに貢献する
という感じ。私が適当にピックアップ・要約すると
「消費者がちゃんと商品を選べるようになって、市場競争が促進されて、製品・サービスは改善され、ついでに安くなっちゃう。」
という感じでしょうか。
とはいえ「広告がどれだけ経済・消費者に貢献していようが、ネット広告が邪魔であることには変わりない」とか聞こえてきそうです。ぐぬぬ。
では次に 「ネット広告はそもそも何がいいのか」 っていう所を整理しつつ、ネット広告がここまでウザくなってしまった原因を探ってみましょう。
インターネット広告の役割について
ネット広告は、従来の広告と大きく異なる特性があることで普及した背景がありますが、この特性を2点挙げてみます。
- 消費者の属性を分析し、ターゲットにピンポイントで広告表示できる
- 配信効果を測定することができる
1. " 消費者の属性を分析し、ターゲットにピンポイントで広告表示できる"
従来の広告媒体を活用して、事業ターゲットにちゃんと広告を見せるためには、専門性の高い雑誌など特定消費者が集中する媒体に広告を表示することが必要でしたが、雑誌の読者は制限されることで広く認知を獲得することは困難でした。
一方広く認知を獲得することはテレビ広告を利用することで実現可能でしたが、不特定多数に広告を表示するものの、肝心の事業ターゲットにちゃんと広告が届けることについては苦手、という問題がありました。
つまり従来の広告では「リーチと深さ」のトレードオフが問題となっていたわけです。
ところがネット広告の登場により状況は変わりました。消費者の属性を分析した上でターゲットにピンポイントで広告を提示することが可能となり、またネット利用者は膨大であることから、「リーチと深さ」のトレードオフを克服することができるようになったのです。
2. "配信効果を測定することができる"
こちらは単純ですが、従来の広告媒体(テレビや雑誌等)は広告による効果を測定することができませんでしたが、ネット広告においては消費者の行動を追跡し、広告に効果があったかを分析し、PDCAを回すことで効果的な広告配信が可能となりました。
つまり
以上の2つの特性から、ネット広告という仕組みによって、広告主は効果的(安価)かつ広く広告を届けることができるようになりました。
消費者にとっては、市場競争が更に促進され、製品・サービス・価格が一層と改善されることが期待できるというわけです。
ネット広告の質がわるい問題
ネット広告の良さそうな面に目を向けてきましたが、では何故この優れた媒体がそこまでウザいのか。私の思う原因を以下のように考えてみました
- 安価に広告配信することが可能なため質の悪いものも表示される
- 配信実績が確認できるので短期KPIを重視した広告が選択されがち
- メディアが収益向上のためにクリックさせたがる
1."安価に広告配信することが可能なため質の悪いものも表示される"
従来の広告であれば、一定程度お金を持っていなければ、テレビのような皆が目にする媒体で広告を利用することができませんでした。
そのためちゃんとした会社が、ちゃんとお金をかけて、ちゃんとした広告を配信することで、広告の質が保たれていたと考えられます。
しかし前述の通りネット広告は安価に配信することが可能となり、広告配信のハードルがグッと低下しました。するとどうでしょう
「太って彼女にフラれた・・痩せよう!」
みたいなモラルの無い○outubeがバンバン表示されるようになってしまいました。かなしみ。
2. "配信実績が確認できるので短期KPIを重視した広告が選択されがち"
配信実績が確認できることで、短期KPIとしてCTR(広告のクリックされ易さ) 等が重視されるようになってしまいました。
人間は危機感や不安感を煽るもの、もしくはエロ系コンテンツに対して強く反応するような傾向がありますので、CTRを稼ごうと思えばそういった不快な広告を出すことでKPI目標を達成できるということになります。
3."メディアが収益向上のためにクリックさせたがる"
広告枠を提供するメディア(ブログなど)は、広告がクリックされることで収益が得られる仕組みになっています。「それならクリックされやすい広告配置してやれ!」と無茶苦茶なことをし始める悪いメディアが出てきます。
画面全体を覆うような広告を表示したり、透明な広告をしかけることで強制的にクリックさせたり、色々悪いこと考えますね。
ということで不快なメディアと広告が絶えないということになります。
3点問題点を考えてみましたが、まぁそりゃあ嫌われます。
嫌われた結果、どのようなことが起きたのでしょう?
ネット広告を取り巻く情勢について
かくして嫌われものになったネット広告に対して、色々と天罰が降りました。
アドブロックの登場
ウザい広告が出るなら隠してしまえ、ということでアドブロックアプリが登場し、広く普及してしまいました。
世界の「アドブロック」状況がよくわかる4つのグラフ:日本は心配無用(いまのところ)という調査結果 | DIGIDAY[日本版]
こちらの記事はだいぶ情報が古いですが、2016年時点で米国でアドブロック普及率は24%となっています。要は売上が24%低下するってことになります。ひえ〜!
日本においては普及率が10%と低めですが、ios端末用のアドブロックアプリが有料アプリランキング1位になるなど、無視できない状況にあります。
EUのGDPR, AppleのITP の登場
Cookie規制で企業のデータ保持はどう変わる? GDPR・CCPAの動向もおさらい | 【レポート】デジタルマーケターズサミット2020 Winter | Web担当者Forum
これはネット広告がウザいというよりも、ネット広告の背後で消費者情報を勝手に収集していることが問題視されているのですが、cookieが規制され消費者情報を収集することが難しくなりました。
要はネット広告の強みである消費者分析ができなくなるので、広告媒体としての魅力が失われることになります。
これからのネット広告のあるべき姿について
結論からいうと
「問題点解消して信頼回復して、ちゃんと消費者と経済に貢献しようぜ!」
ということになります。
ネット広告各社の取り組み
現在、ネット広告各社、業界の健全化に向けた数々の取り組みに着手しています。
Googleはchrome上のcookieを廃止することを計画しています。
Google による Cookie 廃止、「2年間」の猶予に歓迎の声 :「実に穏やかなアプローチだ」 | DIGIDAY[日本版]
Facebookは広告表示のコントロールできるようになりました。
Facebookで表示される広告はどのように決まるのですか。 | Facebookヘルプセンター
Yahooでは広告審査を強化するようになりました。
ヤフー、1億件以上の広告素材を非承認 「髪などコンプレックス刺激」「根拠のないNo.1表示」など - ITmedia NEWS
ネット広告の存在意義について
ここまで説明してきましたが、本来広告という仕組みは、製品・サービス・価格を改善することで消費者に恩恵を与えるものでした。特にネット広告は市場競争を強く促進することで、この恩恵をさらに大きくすることも期待されます。
しかし実際は、ネット広告の抱える問題により、消費者に不便を強いることで、本来あるはずの価値が見失われてしまっています。
今ネット広告に求められるのは、googleのように無闇に個人情報を収集することをやめ、facebookのように広告表示を消費者が選択できる環境を提供し、そしてyahooのように広告コンテンツの質を高めることで、業界を健全化し、消費者の信頼を取り戻すことだと思います。
業界全体でこういった動きを継続し、本来のネット広告がもつ価値を取り戻していくことが必要なんじゃないかと思うわけです。