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ビジネスに関心があるデータサイエンティスト。データ解析・ビジネス・エンジニアリングについての知見を纏めています。

エンジニア生存戦略を経営学で考える - 競争地位別戦略 編

はじめに

この記事はエンジニアの生存戦略(キャリア戦略)を経営学と関連づけて分析する事で、以下2つを達成することを目的としています。

  • エンジニアが市場から必要とされ長く働き続けるための戦略を、経営学を用いて考える。
  • ついでに経営学についても理解を深める。

なぜ経営学で考えるのか? などについては導入篇をご覧ください → 

mikemoke.hatenablog.com

取り急ぎ結論

経営戦略における競争地位別戦略を、エンジニアの能力開発に関連づけて考えて行きますが、取り急ぎ結論を提示しておきます。ご自身の置かれている立場や目標を元に、どういった能力開発が必要か参考にしてみてください。

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それでは「競争地位別戦略とは何であるか」「経営においてどのように使われるか」「エンジニアの生存戦略に活用できるか」について、以下まとめていきます。

長々と書いているので、面倒な人は上の表を参考に、気になるところだけ見ていただければと思います。それでは行ってみましょう→

 

競争地位別戦略 とは

コトラー の競争地位別戦略は経営戦略を学ぶ上で、真っ先に学ぶであろう項目の一つです。業界の地位や目的によって企業をリーダー・チャレンジャー・フォロワー・ニッチャーの4つに分類し、それぞれの企業が取るべき経営戦略の方針を定めた考え方です。

有名なので色んなサイトで情報参照できるかと思います。

コトラーの競争地位戦略 | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI)

リーダーとは・意味|創造と変革のMBA グロービス経営大学院

ちょっと分かりにくいかもしれないので、ざっくりまとめると

  • リーダー 

業界1位の企業。売上だけでなく生産性やブランドも高まるので、横綱相撲・ゴリ押しで競合他社に勝てる。(例:トヨタ, マクドナルド、ユニクロ etc)

  • チャレンジャー

業界2位以降で、業界1位の座を狙っている企業。正面対決してもリーダー企業には勝てないので、機能・性能の差別化で勝負を仕掛ける。(例:日産、ホンダ、etc)

  • ニッチャー

業界2位以降で、特定のニーズに焦点を当てて製品・サービスを提供する。値段設定は高めなことが多い。(例:スズキの軽自動車 etc)

  • フォロワー

リーダー・チャレンジャー企業の模倣を行い、廉価版製品を提供する。(例:アイリスオーヤマの家電等)

 業界の地位と、目指している目標(業界1位を目指すのか、廉価品を売るのか、ニッチを狙うのか)によって分類され、それぞれ取るべき戦略が特定されます。戦略については次の具体例で少し触れていきます。

 

企業経営における具体例

リーダー企業 - トヨタ

こちらのサイト (自動車販売台数速報 日本 2019年 - 自動車産業ポータル マークラインズ ) を参照すると、2019年12月のトヨタ自動車の日本国内シェアは46.6%と、2位以下を大きく引き離しており、ダントツのリーダー企業であると言えます。一般論としてリーダー企業は大量生産・販売によるコストリーダーシップ(設備能力・従業員能力が最適化され製造単価が低下する)が働くため、収益性が高まります。得られた利益を投資する事で企業は成長し、業界1位の地位が更に盤石となります。

チャレンジャー企業 - 日産

業界2位でシェア8.5%と、トヨタに遠く及ばないため、正面対決をトヨタに挑んでも勝てる見込みはありません。 そこで日産は差別化を行い、トヨタ異なる価値を消費者に提供する必要があります。下記のニュースでは日産が自動運転をいち早く導入する事でトヨタとの差別化し、自動運転を求める利用者の獲得を目論んでいると考えることができます。

日産、全新型車を「簡易」自動運転に 追従や高速手放し: 日本経済新聞

ニッチャー企業 - スズキ

スズキは普通自動車においては業界5位ですが、軽自動車においては業界1位となっています。トヨタなど圧倒的リーダー企業が不在の軽自動車市場に焦点を当てる事で、小さい市場ながらも高いシェアと収益性を確保することが可能となります。 

フォロワー - アイリスオーヤマ

自動車業界で分かりやすいフォロワーがいなかったので、フォロワーとしてアイリスオーヤマ(家電)を挙げてみました。アイリスオーヤマの家電は他社を模倣しつつ機能を省きシンプルにする事で廉価版を提供します。高価格帯の家電を販売するpanasonicなどと異なる市場を獲得しています。 

 

エンジニアの生存戦略への活用

いよいよ本題に入りますが、企業の "製品開発→製造" というプロセスを、生存戦略においては "スキル獲得→業務活用(業績獲得)" と置き換えて考えていきます。

リーダー人材の生存戦略

  • リーダー人材の概要

ここでリーダー人材というのは、多数の業務を実行し業績を獲得することができるポジション・企業にいる人材と考えます。そういった人材は多数の業務を行うことでスキルが洗練され、業務効率が改善し、実績が高まっていきます。そうすると新たな仕事もリーダー人材に集まることになり、更にリーダー人材はリーダーとしての地位が強化されていきます。

  • リーダー人材の例

例としてデータサイエンス界隈を挙げてみます。元々データの利活用が進んでいるような企業で働いているデータサイエンティストは能力や実績が申し分なく、データ分析の仕事も次々飛び込んでくることでしょう。転職市場においても強気で交渉することが可能となります。

リーダー人材は圧倒的に強いポジションにいるため、そのまま順当に働き、能力強化し続けるだけでも市場競争力を持ち続けることが可能です。また、今後確実に需要が伸びそうな能力・知識にまで手を広げることで、その地位を更に盤石なものにすることができます。次項で記載するチャレンジャーは様々な能力で差別化してくると考えられますが、その中でも有力とみられる能力を獲得することで、チャレンジャーに対しても優位を維持することができます。(同質化戦略) 

 

チャレンジャー人材の生存戦略

  • チャレンジャー人材の概要

ここでチャレンジャー人材というのは、リーダー人材に比べ業務に恵まれず実績も中々獲得することができないが、それでもリーダーになるべく市場価値の向上を目指す人材のことを考えます。業務環境等の影響により、リーダー人材に比べてスキルが洗練されず、また実績も積むことができず、単純に業務をこなすだけではリーダー人材に対抗することは困難です。転職市場においても、あまり強気で交渉することはできないでしょう。

  • チャレンジャー人材の例

再びデータサイエンス界隈を挙げてみます。データ活用が発展途上で「これからはビッグデータだ!」とか言い始めた企業で働いているデータサイエンティストは、まずデータを集めることから始まり、データ活用の意義を社内に布教し、そして環境を1から構築し、、とデータ分析の仕事に中々取り組むことができません。転職市場において"データ分析"という専門性においては、リーダー人材に対抗することは、おそらく困難でしょう。

チャレンジャー人材はリーダー人材に直接対抗することは難しいので、差別化を行う必要があります。リーダー人材が持っておらず、今後市場ニーズの成長が見込める能力を獲得し、複数能力を組み合わせることで、自身の市場価値を高めることができます。

前述の可哀想なデータサイエンティストを例にすると、データ分析の専門性以外に、データ分析環境の構築やデータ活用のコンサルティングなどの能力を高め、専門性を増やすことでリーダー人材と異なる土俵で戦うことが可能となります。市場ニーズがあれば、リーダー人材と同様に高い市場価値が得られることでしょう。

ただしリーダー人材も前述の通り同質化戦略(チャレンジャーの模倣)を行ってくる可能性があるため、チャレンジャーは継続して差別化をし続ける必要があります。

 

ニッチャー人材の生存戦略

  • ニッチャー人材の概要

ここでニッチャー人材というのは、特定の小規模な市場ニーズに対応して能力を獲得した人材のことを考えます。市場規模が小さいためリーダー人材ほどスキルを洗練することはできませんが、能力の希少性により、転職市場から高い評価を受けることが可能となります。

  • ニッチャー人材の例

ここでもデータサイエンス界隈を例に挙げてみますが、医療情報のデータ分析に特化した人材はニッチャー人材と考えられます。医療情報の分析をするためには、生体について理解が必要であったり、また医療情報は個人情報保護・セキュリティに特に配慮が必要など、特定の能力が求められます。市場としてはデータ分析全体からすれば一部でありながら、医療情報の扱いに長けた人材は希少であり、重宝されることと考えられます。

ニッチャー人材は、特定・小規模の市場ニーズに対応した能力を獲得する必要があります。もし大きな市場であればリーダー人材・チャレンジャー人材が群がり、競争が激化する可能性があるため、あくまで将来的に市場規模が限定されている領域です。能力の希少性が高まり、また他人材との競争も穏やかになることが期待されます。

但しニッチャー人材の問題として、環境変化によって需要が変化しやすく、人材の市場価値も低下するリスクが高いことがあります。外部環境の変化に注意を払っておく必要があります。

 

フォロワー人材の生存戦略

  • フォロワー人材の概要

フォロワー人材というのは、リーダー人材・チャレンジャー人材を追いかけてスキルを獲得し、ある程度成熟した市場で働く人材のことを考えます。すでにリーダー人材・チャレンジャー人材が切り開いたスキルと、これを獲得するための情報が整っており、スキル獲得を容易に行うことが可能となります。業界に遅れて参入する時に取りやすいポジションと言えます。

  • フォロワー人材の例

データサイエンス界隈を例に考えると、ディープラーニング検定はフォロワー人材向けのスキル(知識?)であると考えることができます。この検定はディープラーニング技術の普及を目指したもので、内容も一般向けに調整されており、書籍等情報が整っています。これまでDeepLearningやデータサイエンスに触れたことがない人でも知識・スキルを容易に獲得し、データに関連した職業に就くことができます。

フォロワー人材は効率的にスキルを獲得し、これを活用した業務に取り組むことが求められます。ただし同様のスキルを持った人材が多数存在するため競争が激しく、待遇も低くなることが想定されます。常にリーダー人材・チャレンジャー人材の取り組みに目を向け、また新たなスキルを効率的に獲得し、次の仕事につなげていく必要があります。 

将来的にチャレンジャーやニッチャーになることを目指すためのファーストステップとして考えてもいいでしょう。

  

まとめ

経営戦略の競争地位別戦略について、概念の説明と、企業での実例、そしてエンジニアの生存戦略の応用について考えてきました。

企業と人材をリーダー・チャレンジャー・ニッチャー・フォロワーの4分類をしましたが、「どの分類が優れているか」を説明するものではないことにご注意ください。実際の企業においては、明確に分類することは難しく、大体は複数の組み合わせであることが多いです。

人材についても、複数分類の組み合わせで考えてみたり、人材競争の枠を社外ではなく社内のポジションについて考えてみたりと、色々と応用できる場面があるかと思いますので、自分なりの生存戦略を考えてみてください。